「スローガンは『使命』です」
2021年1月1日。
第100回目を迎えた花園。全国高校ラグビー大会の3回戦。38-21のスコアで秋田工業を下した大阪朝高。
チームにとって通算5回目のベスト8進出が決まったのち、9番の李錦寿(り・くんす)はインタビューでこう意気込みました。
一見、高校生のスローガンにしては重く聞こえるこの言葉。彼らはなぜ「使命」を掲げたのか。遂行しなければならなかったのか。
「強豪」大阪朝高ラグビー部とは
1972年に創部された全国屈指の強豪校である大阪朝鮮高級学校ラグビー部。
同校のOBで新任教師であった金鉉翼さんが創設し赴任当初は力自慢の学生を集め、一からチームを鍛えます。
当時の大阪朝高はやや荒っぽく対戦相手と喧嘩を始めることもしばしば。
ただ、厳しい指導ののち、数年後には大阪工大高、現在の全国屈指の強豪 常翔学園ともごかくに渡り合える力をつけます。
しかし、花園には出られない
朝鮮学校は学校教育法上、私立でも公立でもない「各種学校」の扱いで公式戦には出場することができませんでした。
ただ、その後に門出開放の声が多く上がります。
1994年度全国高校大会への参加が認められました。
すると2003年には花園に初出場。
2009年からは6大会連続で出場。
そしてトップリーグにも数多くの選手を排出するなど今や大阪朝高は高校ラグビーを代表する強豪校に成長しています。
しかし近年はある問題に直面しかけています。
それが部員不足です。
部員はたったの41人。小さな組織が勝つためには
少子化や、朝鮮学校の高校無償化の適用外、時代の変化から20年前には600人ほどいた生徒数が2020年度は210人に減少。また、そもそも推薦を利用し全国各地から優秀な選手を取れる環境でもありません。
例えば他の同じくベスト4に出揃ったチームと比べると人数の少なさが目立ちます。
・東福岡 135人 3年44人 2年45人 1年46人
・京都成章 123人 3年36人 2年45人 1年42人
・大阪朝高 41人 3年21人 2年7人 1年11人
それにも関わらず限られた環境下で激戦の大阪を勝ち抜き、連戦が続く花園で全国3位の成績を残した大阪朝高。
なぜ彼はこのような強さがあるのでしょうか。
部員が少ないというハンデについて、大阪朝高の権監督はこう話します。
自分たちがどうすれば強くなるか。勝てるのか。
このように「小さい」を認識し、タフな状況下でも勝利する方法を追求し続けたのです。
高校生が使命を背負ったわけ
そしてチームにとって全国の舞台で通算5回目のベスト8進出が決まったのち9番の李錦寿(り・くんす)はインタビューでこう意気込みます。
「スローガンは『使命』です」
「新たな仲間を増やすこと」
先ほども紹介した通り、そもそも学校自体の生徒数が著しく減少しているためそれはラグビー部にも影響します。
今年度の部員数は3年21人 2年7人 1年11人の計41人と 人数はやはり少ない。特に今年の3年生が抜ければ部員は18人。メンバー登録もギリギリとなります。
しかしその中でも「大阪朝高でラグビーがしたいと思える子が出てくるようにしたい。」
彼らの使命には
「タフな環境に抗い高校生ながらクラブや学校、後輩など未来も考え花園を戦う」
このような思いがあったんです。
全国制覇への道
そして2021年1月3日花園準々決勝。
相手は大会随一の大型FWをもつ流経柏。魂のタックルで相手攻撃をしのぎ前半17分に敵陣からスクラムでチームの大黒柱NO.8の金勇哲(きむ・よんちょる選手)がサイドアタック先制トライ。
コンバージョンも成功し7-0で前半を折り返します。
しかし後半先制したのは流経。お得意のラインアウトモールで押し込み5点。
激闘はつづき、スコアは14-10と大阪朝高が4点リード。試合はロスタイムへ。
後半試合時間38分を超えます。死闘とも呼べるゴール前の攻防が行われますが、大阪朝高が流経のサイドアタックを阻止。大阪朝高が10年ぶり3度目のベスト4を決めました。
そして全国制覇まであと2歩。次戦、準決勝で立ちはだかるのは前回王者桐蔭学園。
実は大阪朝高は過去2度も89回、90回の大会で決勝進出を桐蔭学園に敗れています。
しかし主将でNo.8の金勇哲は
花園準決勝第2試合。
前回王者桐蔭VS使命を帯びて戦う大阪朝高
魂のタックルで王者桐蔭の足をとめテンポのよいアタックで得点。前半16分には9番SH李錦寿(り・くんす選手)が持ち出して空いたスペースを抜け、トライ。
前半は、なんと昨年王者の桐蔭に12-12で折り返します。しかし、後半3分。桐蔭に勝ち越しの得点を許すと立て続けにトライを奪われます。大阪桐蔭は懸命にDFをするも相手の猛攻を完全に抑えることはできずノーサイド。結果、40-12で桐蔭が勝利という結果になりました。
タフな環境を乗り越える力
それでもタフな環境を乗り越え、大きなハンデはありながらも、10年ぶりの全国3位。立派な功績を残した大阪朝高。
冬の花園を熱くさせた彼らの姿を見ると「大阪朝高でラグビーがしたいと思える子が出てくるようにしたい。」この使命は遂行され、そしてその思いは後輩たちに伝わったはずです。
また例年に比べ厳しい環境に直面する人が多い現在、
彼らのここまでの物語は私たちにも勇気と感動生きるヒントをくれたと思います。
限られた環境でできること、
諦めなかった強さの探求そして「未来のために挑んだ花園での使命」
これが大阪朝高部員41人で挑んだ聖地花園、全国制覇挑戦の物語です。
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